フリーランス ライター 臺代裕夢

過去の代表的な事例紹介(長野県千曲市/ちくま)


2017年 長野県千曲市観光パンフレット

『ちくま』

Discover Japan編集部からご依頼をいただき、長野県千曲市の観光パンフレット『ちくま』の原稿・コピーなど、文章まわり全般を担当しました。
「20代~30代の女性がもっと千曲を訪れてくれるように」という想いからスタートしたこのプロジェクト。
一般的に観光パンフレットと聞いて想像するのは、駅前や観光案内所で配布されている、ぺらぺらの紙を使った数十ページにこれでもかというぐらいぎっしりと情報が詰め込まれたものだと思います。
旅先でとりあえずもらってはみるものの、たいして読みもしないまま丸めたり折ったりしてカバンに突っ込み、家に帰ったらごみ箱へ……という経験がある人も多いのではないでしょうか?
それもそのはず。スマホでなんでも検索できてしまうこの時代、情報を詰め込んだだけのパンフレットにそれほどの価値はありません。
極端な話、観光スポットや有名なお店、人気のお土産の名前さえわかっていれば、ネットで調べたほうがより効率よく、より多くの情報を得られますし、若い人にとってはそれが当たり前になっているからです。

そこで、Discover Japan編集部では、「情報の多さ」よりも、20代~30代女性が思わず手に取りたくなったり、読めば千曲に行きたくなるような「オシャレさ・可愛らしさ」などに重きを置きました。
女性のカバンに入れて持ち歩けるようサイズは小さめに。
インスタグラムなどで若い人に馴染みのある真四角の写真を多用し、掲載する情報も女性が興味を持ってくれそうなものを厳選しました。
結果、単なる情報源ではなく、旅の思い出として思わず持ち帰りたくなる素敵なパンフレットが完成しました。



情報よりも雰囲気を重視した

原稿・コピー

上記のような前提条件があったため、『ちくま』は従来の観光パンフレットと比べてかなり文字が少なめ。
写真からもわかるように、余白が目立つすっきりとしたデザインです。
この文字量ではどれだけ情報を詰め込んだところでたかが知れていますし、繰り返しになりますが、ネットに及ぶべくもありません。
そこで、文章やコピーに関しても説明的な硬い内容を避け、必要最低限の情報と「なんとなくその場所に行ってみたくなる雰囲気」を重視しました。
いくつか、具体的な例を挙げてみます。
先方からのオーダーで、「ちくま」の最初の3見開き(千曲の代表的な背景が見開きで使われていて、その上に文章が載っているページ)は老若男女を対象とした内容に、それ以降の具体的な観光案内部分は20代~30代女性を対象にした内容になっています。
まず、前者の代表的な例として、表紙をめくって最初に飛び込んでくる「姨捨の棚田」の風景には、こんな文章を載せました。

あの日見た青空を、
まだ、覚えていますか?

水の張られた田んぼ、
緑の山々と吸い込まれそうに青い空。
なぜだかこういう景色を見ると、
懐かしい気持ちに包まれる。
多分、思い出せるんだ。
毎日ワクワクしていたこと。
一分一秒ぜんぶがトクベツだったこと。
そして、本当はその延長に
今日があるんだってこと。
目を閉じればほら、
少年少女だったころの自分が、
無邪気に走り回っている。

従来の観光パンフレットから考えれば、ここは当然、有名な観光名所である「姨捨の棚田」について説明するべきだと思います。
パンフレット内でこのページ以外に姨捨の棚田が出てくるページはありません。
しかし僕は、「こんな景色が見られる場所がある」という写真だけで伝わる事実以外に、「重要文化的景観に選定されていて約1,500枚の棚田が……」といった情報を載せる必要性を感じませんでした。
「姨捨の棚田」で検索すればその手の情報はたくさん出てきます。
それよりも、写真のもつ魅力とノスタルジックな文章を組み合わせることで、なんとなく千曲に流れる空気に触れられる、同じ場所に立った自分を想像できる、そんな導入にしたいと考えました。

次に、女性をターゲットにしたページの例を挙げます。
「千曲」全体を説明するページに載せたのはこんな文章です。

深呼吸をするための場所が
あなたには、ありますか?

思いきり息を吸って、吐く。正しく深呼
吸をするためには、きっと、綺麗な空
気が必要だ。どうせなら川がのんびりせ
せらいで、緑色の風が頬をなでるような
場所がいい。当たり前のようでいて、自
分のまわりではなかなか見つからない幸
せな時間。千曲には、ちゃんと残ってる。

こちらも、「千曲にはこんな特産があって温泉が有名で……」などの説明はいっさい載せず、雰囲気重視にしています。
また、各キャッチコピーも若い女性を意識してつけました。

(足湯)
カフェの代わりに
温泉に立ち寄る
いつもより、
足どりが軽くなる

(味噌づくり体験)
お味噌にはこだわってるの
帰ったら、そう言ってみよう

(日本酒の蔵)
ごめんね男の子
本当は甘いカクテルより
日本酒が好きなの

観光パンフレットはどうしても万人向けになりがちです。
しかし、せっかくターゲットを決めているのに中途半端になってしまっては本末転倒。
今回は、思いきり女性目線で考えました。

 

地方創生とクリエイターの
“いい関係”

この仕事で僕が直接関わりをもったのは、千曲市観光課の方々、Discover Japanの編集者、そしてカメラマンです。
大きく分けると、千曲市観光課の方々はクライアントであり地方自治体側、自分を含めたその他の面々がクリエイター側です。
近年成功している地方創生事例の多くは、このように自治体×クリエイターという関係性が見られます。
今回の「ちくま」は、自治体とクリエイターが本当に“いい関係”を保ってつくりあげたものだと思うので、最後に少しご紹介します。

そもそもこのプロジェクトは、千曲市観光課の方々が「いままでと同じことをしていても仕方がない。新しい挑戦をしていこう」という想いを掲げたことからスタートしています。
長年のあいだ続いてきた慣習を壊すのは、簡単なことではありません。
我々クリエイター側にこの仕事を発注できる土台を整えるまでには、多くの調整が必要だったことと思います。
現地へ取材に行った際、僕も先方の担当者の方たちと直接お話できる機会がありました。
そこでいただいた言葉が頭に残っています。

「従来の観光パンフレットっぽさとか、この場所はこんなふうに紹介するのが一般的だとか、そういうことにはいっさい配慮していただかなくてけっこうです。臺代さんが実際に歩いて、感じたことを思うままに表現してください。それを(上に)通すのが私たちの仕事です」

自治体や企業といっしょに進める仕事において、同様のことをおっしゃる方はたくさんいます。
ところが実際にモノができあがると、あれやこれやと修正が入って話が二転三転し、結局は目新しさのない無難なところに落ち着いてしまったり、あるいはクライアントが自分でつくった広告のようになってしまうことが多々あります。
ですから今回も、担当者の方の言葉を信じて自由に書いたはいいものの、例えば先に挙げた「姨捨の棚田」であれば、文章中に棚田の説明をいっさい入れないというのは僕の独断なので、いくらこっちのほうがいいと主張しても、「もっと場所の説明をしてください」という修正指示がくると思っていました。
しかし結果として、必要最小限の調整は入ったものの、大枠はまったく変えることなく最後までカタチにすることができました。
僕の感性を信じ、受け入れてくれた担当者の方には本当に感謝しています。

自画自賛をしたいわけではなく、事実として、普段からさまざまな表現活動を行っているクリエイターにはけっこういろんな引き出しがあります。
それを日々の仕事にしているわけですから、こと表現という点においては、自治体や企業の方には見えていないところまで見えています。というか、見えていなくてはいけません。
一方で、地域や製品に関する理解、知識は間違いなく自治体や企業の方に及びません。
ですから、「お金を払っているクライアントだから偉い」、「クリエイターのやることに口を出してはいけない」という考え方は捨て、あくまでも対等な立場として長所をかけ合わせたとき、互いに納得できるモノが生み出せるのだと思います。